5月15日号

 金融記者をかれこれ四十五年もやっていると、いろいろな人物との出会い、別れを劇的に経験する。
さる五月十四日、午後四時七分、六十二歳で急逝した小渕恵三氏とは、昭和五十二年、第三十二人目の衆院大蔵委員長在任中の時が、最初の出会いであった。小渕代議士は四十歳。五期連続当選。十四年間の議員経験の後、初代・北村徳太郎大先輩に通ずる伝統ある衆院・委員会の委員長就任ということで、小渕青年代議士は大いに張り切っていた。
同年九月には「当面する財政・金融問題を語る」と題して、当時、全信協・全信連会長であった小原鐵五郎会長と、記者の司会で、時局対談を開催。その時、小原会長は、「いい先生を紹介して頂いた。あの代議士は将来、かなり偉くなりますよ―」という言葉が、今も記者の耳に昨日のごとく鮮明に残っている。
総理大臣にまで登り詰めたものの、最大の懸案だった経済回復、金融再生、沖縄サミットの実現を目にすることなく病魔に倒れた事は、小渕先生も、さぞかし“無念”の境地であったろう。
一方、長田庄一氏。山梨県北巨摩郡高根町の山村(当時)に生まれ、一代にして巨万の富“長田王国”を築き上げた。フランスなどでは一国の総理以上に厚遇・重視されて、同国最高位に位置する「レジョン・ド・ヌール勲章」まで授与された“立志伝中の人物”長田庄一氏は、七十八歳の誕生日(七月二日)を目前に、逮捕。牢獄行きとなった。
昭和二十四年六月に「日掛五十円で手軽に金融」のキャッチフレーズで始めた平和勧業無尽。長田氏は当時、二十七歳であった。
小渕前総理の来る六月八日の内閣・自民党葬儀には、米のクリントン大統領も出席するという。
両巨人の“生きざま”に、感慨無量の心境である。

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