2001/3/25号
不況・資産デフレに対策示せ!
−栄えるのは商工ローンばかり

 株価急落、政府の「デフレ」判断。歯止めない地価下落。こうした長期低迷中の日本経済の更なる悪化に引きずられたかのように、ITバブルで世界の繁栄を独り占めしていたアメリカ経済も、ここに来て急速に市場の衰えを見せ始めた。こうした事態に日銀も昨夏上げたばかりの金利を戻し、デフレ解消するまでゼロ金利で行く方策をだした。しかしながら最大の「犯人」と言われた「森総理大臣」は、相次ぐ失態にも拘わらず四月はじめまで存続してしまった。この政治不在・行政不在の中、「回復基調にある」との景況判断の元進められてきたペイオフ解禁、国際会計基準等が、中小企業金融に大きな足枷となって企業倒産の増加に拍車をかけている。都銀は四月からの合併・統合の中で、いわゆる第二分類以下の融資の強制返済とうち切りを始め、一方急速に再編が進む信組では、合併された側の顧客が路頭に迷う事態となっている。この「切り捨てられた」企業が信金へとくるものの、信金自体が「検査マニュアル」により、既存融資の健全化等で手一杯で、新規融資ができなくなっている。四面楚歌の中小企業の中には、経営者の自殺保険で融資返済を図るケースが少なくない。資産健全化、自己資本比率充実―の錦の御旗のもとで進められている金融改革が、実体経済をゆがめ、さらに景気悪化・企業倒産を加速させている現状をまとめてみた。

 底の見えない長期不況と資産デフレに嘆息しきり

「もう、いいかげん、何とかならないものか」−全国の中小企業金融と地域金融を担う金融関係者から、底の見えない長期不況と資産デフレに、嘆息ばかりが漏れている。  日銀の二月、三月の二度に亙る公定歩合の引き下げ(〇・五%↓〇・三五%、〇・三五%↓〇・二五%)も、効果ゼロ=B
 不況の深刻化を反映して、今年に入ってからも株価は「右肩下がり」。内外証券会社のディーラー売りも絡んで、一時、日経平均一万二千円割れというドロ沼¥態に。
 地価の方はさらに深刻で、三月の地価公示で何と「連続十年の下落」を記録。都内の一部では下げペースが落ちてきたものの、多くの地域が未だに年間六、七%の下落に直面している。
「景気は悪いわ、地価が下がるわ、株も暴落。やっと不良債権処理に一応のめどがついたと思ったら、また新たなものが発生して償却に迫られて、いつまで経っても終わらない状況。
 さらに、タイミングの悪いことに、アメリカの会計基準に合わせるために、時価会計の導入、退職給付会計が変更されて、億以上の負担、マイナスが出てくる…」という具合で、金融機関の決算は、「三重苦」、「四重苦」の様相となっている。
 金融機関が窮すれば、借り手の企業も融資が思うように受けられず、したがって産業も不振となり、景気は益々悪化する一方という、悪循環が延々続いている。
 それでも、三月十九日の実質ゼロ金利$ュ策(注参照)復活により、株価が若干反発、金融関係者や米国からも好感されて、日本経済の底抜け′恃Oはやや薄まったが、まだまだ上昇気流に乗るにはほど遠そうだ。

 未曾有の株安で青息吐息

 まず、最近、信金関係者の目立った憂鬱が、「株安」。
 ここまで株価が下がったのは、景気の長期低迷に加え、銀行などが時価会計導入に備えて、ズルズルと株式を売却していること。
 さらに、リンク債などで国内外の証券会社が自社の利益のために巨額のディーラー売買で株価操作を行い、株価下落を加速させたためと言われる。
 信金の場合、運用は債券が主のところが多いとは言え、融資が伸びない現況にあっては、株式の運用もそれなりに期待されているケースが多い。
「それでも、これまでは、株価が下がれば債券価格は上がるということで、ツーペイ≠ナ済んだんですが、時価会計のルールで、今度から『五〇%以上値下がりした有価証券は強制損切り』ということになったでしょう。うちなども、株によっては四十数%も下がったものがあって、『もうこれ以上、下がらないだろうな』と冷や冷やしている状態ですよ」(某都内金融機関)
「うちでも、この株安で相当の含み損が出ていますね。信金の場合、一般に融資が多く有価証券運用は少ないので、経営の屋台骨を揺るがすまでのことはないですが、それでも億単位のマイナスですから、全く憂鬱になりますよ」(某都内信金)。

 地価下落止まらず

 さらに、東京などで一向に下げ止まらない地価。
 ある都内金融機関トップは、こう嘆く。
「不良債権は概ね片付いたのに、地価が毎年、毎年下がっていく。そのたびに何十億以上の担保不足が発生して、引当てに追われる。それで不良債権処理にいつまで経ってもめどがつかないんですよ。倒産など何もなくても、毎年、毎年これだけの処理をしなければならないんですから…。
 実に十年に及ぶ資産デフレ。何せ、バブルの頃に比べると一、二割の地価ですよ。昭和五十四年当時と同じ地価水準まで下がってしまって、それでも今なお下げ止まらないんですからね…。こんな状態では、我々も先行下落不安で貸出には腰が引けますよ」。

 「中小企業の自殺者が多い」

「そりゃもちろん、一般の人達にとっては、地価が下がると家が買いやすくなって良い、という面はありますけど、でも一方で景気は悪い、給料は減る、リストラに遭う、会社は潰れるですから、全体として見たら勤め人にとっても、デフレというのは地獄そのものではないですか。
 中でも一番あおりを受けているのが中小企業ですよ。景気が悪いから売上が上がらず参ってしまう。融資を受けたくても、資産に担保価値がなくなっているから、受けられない。
 だから、あまり世間に報道はされませんけど、中小企業経営者の自殺者がいま相当な数に上っているんですね。『私の生命保険で○○金融機関さんに返済を…』などと遺書を残されて逝かれるケースが実に多い。
 我々の方も、保険金が下りても融資金の一部にしかならないし、残されたご家族のこともあるので、これまでは保険金は頂かなかったんです。しかし、今はこちらも厳しいから、半分だけ頂くようにしていますけど、まあ、あまりいい気分はしませんよ」。

 貸し渋りの原因は、金融庁のマニュアル検査そのもの

 さらに、資産デフレに加えて、金融庁による型通りのマニュアル検査≠ェ元凶≠セと言われている。
「今の金融機関の貸し渋りの主な原因は、検査マニュアルそのものですよ。赤字二期連続以上のお客さんは即、要注意先−不良債権予備軍≠セって言うんですからね。でも今、毎年、黒字を出しているような中小企業の方が珍しいですよ。
 本来なら、我々信金は第二分類のお客さんに貸し出すのが使命だし、それが協同組織金融の存在意義でもあるんですが、今は第二分類にも引当金を積まなくてはならなくなっています。また、一方では、自己資本比率を高めなければ『危ない金融機関だ』とレッテルを貼られてしまう。だから、我々としてもおいそれとは貸せなくなっているんです。はっきり言って、最近の我々金融機関の貸出は、第一分類となる『保証付き』がほとんどですよ」
 
 第二分類先お断りで、商工ローンへ

「今、都銀は『統合後に少しでも自行が有利な立場で主導権を握ろう』ということで、猛烈な勢いで第二分類先を切り捨てていて、あぶれたお客さんがわんさと我々信金の元に押し寄せているんです。第二分類といっても従来の信金客より内容の良いお客さんが多く、本来なら我々も格好のビジネスチャンス≠ノなるところですが、昔からのお客さんでもないし、また情報もない上、貸すと自己資本比率が減りますから、おいそれとは貸せない。
 最近は、第二分類先でも先行不安で融資をお断りするケースが増えていて、こうしたお客さんはどこへ行くかと言うと、『商工ローン』に行くんですね。おかげで商工ローンは大繁盛です。
 でも中小企業が普通に商売をやっていて、年利数十%なんて払えるわけがない。先行き、確実に行き詰まります。お客さんの方もそれはわかっているんです。でも、借りるところがないから、切羽詰ってそういうところに借りに行くんですよ」(某都内信金)。
 今、日本は「デフレ・スパイラル」で、景気悪化が資産デフレを呼び、資産デフレがさらなる不況を招くという大悪循環状態。政府の方も、株価や景気対策として、公定歩合の二度に亙る引き下げ、住宅ローン減税、有価証券取引に絡む各種税制の緩和などを行っているが、どうもさしたる効き目がない。
 日本の場合、資産価値と融資と景気が密接にリンクしているので、景気を良くするためには資産デフレを直さねばならないのだが、資産デフレを直すには、景気が良くなるか、良くなりそうな「ムード」が必要条件である。

 ゼネコン破綻のインパクトは絶大

「しかし、どうも将来へ向けての『好材料』が今のところ何もない。
 経済構造改革も結構だが、改革を行うたびに景気は下がる一方。
 政府は最近、金融機関が経済低迷の元凶と考え、ゼネコン債権の直接処理を叫んでいますが、大銀行はゼネコンの最終処理による莫大な赤字額発生は避けたいのが本音ですから、なかなか難しいでしょう。また仮にゼネコン潰しをしたとして、政府が考えるような良い影響ばかりかというと、そんなこともない。
 ゼネコンの仕事はほぼあらゆる業種−建設、不動産をはじめ各種資材、照明、空調、エネルギー、電気機器、家具等々−と関連があるため、ゼネコン破綻は、中小企業の大量倒産につながるんです。金融機関の破綻より、ゼネコンの破綻の方が日本経済に与えるインパクトが遥かに大きいと言われています。そのあおりで中小金融機関が次々、破綻する可能性だって出てきます。
 ですから、我々信金がひそかに最も警戒しているのがゼネコン倒産なんですよ。
 一般にはゼネコン破綻を遠くの国のことのように見ている方も多いでしょうが、実はこれは日本経済全体、我々の生活を揺るがす大ショック療法≠ネんですよ」(某首都圏信金理事長)。
 というわけで、ゼネコン整理も果たして吉と出るか凶と出るかわからない。

 いずれにしても、検査マニュアル緩和に期待

 ある都内金庫理事長は、
「とりあえず、我々の融資を締め付ける原因である検査マニュアルの緩和が大きな改善策だと思いますね。バーゼル委員会の方でも、先頃、多数分散の小口融資はリスクが低いという評価基準を加えるべきじゃないかと言い出していますし、その考え方を取り入れたマニュアルになると、大分違ってくると思います。
 金融庁の方も、来年度からのペイオフを控えて金融機関を大整理しなければならない時にそれをやるのは難しいかも知れませんけれど、そこを何とか考えてもらいたい。このままでは金融機関が死ぬより先に、日本経済の方が先に参って死んでしまいますよ」としている。
「景気が悪化しているのに日銀総裁あたりは回復局面にあると言い続けた結果がこのていたらく。中小企業切り捨て発言をしたのに、『誰がもらしたのか』の犯人探しをしている程度の認識では、真の中小企業の実態は見えまい。  金融庁は、こうした中小企業金融をどうするのか。先進国の中で、これだけしっかりした製造業や中小企業が経済を支えている日本の特性を理解せず潰していくだけなのか」との声も上がっている。

〔注・日銀では、留まらぬ資産デフレに対応し、金融調節の操作目標を、無担保コールレートから日銀当座預金残高に変更。これを今の四兆円強から五兆円に増額することで、無担保コールレートをゼロ%付近に誘導することとした。同時に、長期国債の買い入れを増額(銀行券発行残高を上限とする)し、資金供給を増やす。  日銀では、実質ゼロ金利政策を消費者物価指数の上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで継続することと、長期国債の買い入れを増額(銀行券発行残高を上限とする)により、長期的な金利低下効果も狙っている〕

全信協長野会長、「信金の真価は地元融資シェア」

 3月22日の全信協理事会で交代した加藤敬吉前会長並びに長野幸彦会長は、同日午後5時半より日銀で記者会見を開き、それぞれ退任、就任挨拶を述べた。
 長野会長は、儲けを追わずに地道に中小企業を支え育成している信用金庫の立場を強調。
「最近、非効率とか競争力の弱い企業は市場から撤退すべしとの声があるが、こうした企業の中には社会、経済の役に立っている所が沢山ある。その将来を見極めるのが我々協同組織、なかんずく信金の仕事である」と訴え、隣で加藤前会長も二度、三度と頷いた。
 長野会長はさらに、「中小零細企業金融を扱う信金を銀行と同列に扱い、自己資本比率だけで計るのはどうか。地元融資シェア、経営姿勢なども含めて評価する必要があるのではないか」と述べ、バーゼル委員会で小口分散融資(はリスクが少ない)が評価項目として俎上に上がっていることに期待感を示した。


東信協優良企業表彰

東信協並びにしんきん協議会連合会による平成13年優良企業表彰式が3月22日、ホテルニューオータニで開かれ、優良企業として選ばれた85社が表彰を受けた。この表彰制度は、技術力、企画力などに優れる中小企業を顕彰するもので、昭和63年に制度が創設され、今回が14回目の表彰。今回は、対象企業約6万社の中から、最優秀賞に東京東信金取引先の田仲精密工業梶iCDロムやデジタルディスクの保護膜塗布装置の製造)が輝いた。

東信協、茂木、大前、矢澤体制がスタート

 東京都信用金庫協会では三月二十九日正午からの理事会で、さる三月二十二日の全信協理事会で全信協会長に就任し、地区協会長を辞任した長野幸彦東信協会長の後任会長に、筆頭副会長の茂木 勇副会長(西京信金会長)が満場一致で承認を受け、第十七代東信協会長に就任した。
 任期は、とりあえず長野前会長の残任期間である六月まで。
 茂木副会長の会長昇任による副会長の補選はせず、大前孝治、矢澤洪三両副会長はそのままで、茂木新体制を支えていく。
 なお同理事会では、道関昌彦常務理事が専務理事に昇任。来年に迫ったペイオフ解禁や、協同組織金融のあり方論議など東京の抱える問題に対する見解や識見等をより積極的に業界内外にアピールしていくことになる。
 東信協各支部の理事十名、監事二名の配分等については四月中旬に開かれる理事会で決定する。
 茂木新会長は、旧・大同信金の業務部長時代から、信金業界だけでなく信組業界でも招聘されて講演するなど、協同組織金融論の論客として、広く知られている。  特に平成時代になっては、信金業界代表として金制や金融審議会などでも信金の特性等について積極的に発言。国会や行政等への信金業界への理解を深めさせることに大いに貢献すると共に、全信協の経対委員長としても業界bPの論客として活躍中。
 また平成11年からは、全国信用金庫年金基金副理事長として、年金基金の抜本改革に手腕を発揮した。


新金庫名は「東都中央信用金庫」
 今年十月に合併する同栄信金、港信金の合併後の新金庫名がこのほど決定した。
 新金庫名は、「東都中央信用金庫」。
 港区をはじめ東京の中央部が主な営業エリアとなることから、名付けられたもの。
 職員から公募した約六百件の候補の中から絞り込まれた。


393先に行政処分・指導
−金融庁、KSD問題で
 金融庁は金融機関によるKSD会員勧誘について、全銀行、信金、信組(計七九八機関)を対象に実態調査(各金融機関から報告徴求)を行ってきたが、この結果を踏まえ、三月二十九日、行政処分等を行った。
 具体的には、@キャンペーンを何度も開くなどKSDの会員勧誘を積極的に行った九十二金融機関に対し、「業務改善命令」を発令すると共に、社内規則などの策定・整備を命令。
 A積極的ではないがKSDの会員勧誘を行っていた百九十七金融機関、B勧誘はしていないがKSDのパンフレットを店頭に設置していた百四の金融機関に対しても、社内規則などの策定・整備を指導。さらに、CKSDの会員勧誘に関与した九つの業界団体に対しても指導を行った。
 金融庁としては、金融機関によるKSD会員の勧誘は、これによって金融機関が得る報奨金等も極めて少ないので、金融機関に禁止されている「他業」にまでは至らないが、公共的な金融機関の行動としては不適切との考え。
 このため@ACの二百九十八先については、金融機関等の名前を公表し、今後の戒めとしている。
 ただ、今回の実態調査は平成九年以降の勧誘を調べたもののため、かつてKSD勧誘の先駆的旗振り役だった東信協や関信協の名が挙がらず、最近になってKSD勧誘をし始めた地方信金等が逆に名が出ている例も多い。またKSD勧誘に熱心だった金庫を合併したがために名が出た気の毒な金庫も。
 また今回の処分に対し、「共済は安価で保障を得られる良い制度。自信をもって売ってきたのに…」という職員の声や、「結局、共済やカードの扱いはグレーゾーン#サ決で、今後もあいまいなまま」との今一つスッキリしない感じも残っているようだ。
 だがいずれにしろ今回の処分により、「金融機関によるKSD会員勧誘は事実上、できなくなった」(某金融機関)と見られ、今後のKSD運営への影響は大きいと見られている。

合併に向け専門委スタート
−朝日、江戸川、共積、文京四信金


しんきん中金、「信用金庫部」を新設


東京ベイ、松戸、3月19日合併





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